将棋経験者のためのチェス入門|駒の対応と持ち駒がない戦い方

将棋を指せる方がチェスを始めると、駒の動きは1日で覚えられるのに、対局してみると勝手が違って戸惑うことがあります。原因は動き方ではなく、持ち駒が無いこと引き分けがあることの2点にあります。この2つが、将棋で身につけた感覚のうち「そのまま使えるもの」と「作り直すもの」を分けています。

このガイドは、将棋のルールを知っている前提で「将棋との差分」だけを説明します。駒の動きをまったく知らない状態から始める場合はチェス初心者ガイド|序盤の原則とAIレベルの選び方のほうが順番として読みやすいので、必要に応じて行き来してください。

盤と駒の規模を並べる

まず全体の大きさを押さえます。将棋は9×9の81マスに1人20枚、チェスは8×8の64マスに1人16枚です。駒の種類は将棋が8種類(歩・香・桂・銀・金・角・飛・王)、チェスは6種類(ポーン・ナイト・ビショップ・ルーク・クイーン・キング)です。マスに対する駒の密度は将棋とほぼ同じですが、遠くまで利く駒の割合が高いぶん、盤は将棋より狭く感じます。

初期配置は、自分の手前の段に駒8枚、その1つ相手側の段にポーン8枚が横一列に並ぶ形です。将棋のように3段に散らばってはいません。駒の段は両端からルーク・ナイト・ビショップが左右対称に並び、残った中央の2マスにクイーンとキングが入ります。クイーンは自分の駒の色と同じ色のマスに置き(白のクイーンは白いマス)、キングはその隣です。キング同士・クイーン同士が向かい合う形になるので、ここだけ押さえれば初期配置で迷うことはありません。

駒の対応関係

将棋の駒とチェスの駒には、動きがそのまま一致するものと、対応する駒が存在しないものがあります。

  • 飛車 = ルーク:縦横に何マスでも進み、駒を飛び越えられません。動きは完全に同じです。違うのはその先で、将棋の飛車は成って竜王になれば8方向1マスが増え、取られて持ち駒になれば打ち直せます。ルークにはそのどちらも無く、代わりに後述のキャスリングにだけ参加します。
  • 角行 = ビショップ:斜めに何マスでも進みます。こちらも動きは完全に同じで、盤上を動いているかぎり同じ色のマスから出られないという性質まで共通です。ただし将棋の角は、成って馬になれば縦横に1マス動けてマスの色を変えられますし、取られて持ち駒になれば好きな色のマスへ打ち直せます。チェスのビショップは成る仕組みも打ち直しも無いので、最後まで片側の色に閉じ込められたままです。
  • 王将・玉将 = キング:8方向に1マス。自分から相手の利きに飛び込む手が反則になる点も同じです。例外は後述のキャスリングで、このときだけ2マス動きます。
  • 桂馬 ≒ ナイト:駒を飛び越えて跳ぶという性質は共通ですが、行き先が違います。桂馬は前方の2か所だけ、ナイトは後ろを含む8方向に跳べます。桂馬に慣れているとナイトの帰り道を見落としやすく、逆に相手のナイトが後ろから来る筋を読み落としやすいところです。
  • 歩兵 ≒ ポーン:前に1マスという基本は同じですが、取り方が違います。歩は前の駒を取りますが、ポーンは斜め前の駒だけを取り、正面の駒は取れません。正面に駒があるとポーンは前進すらできず、そこで固まります。加えて、そのポーンがまだ一度も動いていなければ、通過するマスと到着するマスの両方が空いている場合に限り、最初の一手だけ2マス進めます。
  • 香車 → 相当する駒なし:前方にだけ何マスでも進む駒はチェスにありません。縦横に走る役はルークが一手に引き受けています。
  • 金将・銀将 → 相当する駒なし:将棋の守りの主役2種はチェスに存在しません。守りをどう作るかの発想が変わる主な理由がここにあります。
  • クイーン → 相当する駒なし:縦・横・斜めのすべてに何マスでも進む駒で、将棋には最初から存在しません。

クイーンを「竜王(成った飛車)」や「馬(成った角)」と対応づけたくなりますが、これは正確ではありません。竜王は飛車の動きに8方向1マスを足した駒、馬は角の動きに8方向1マスを足した駒です。クイーンは飛車と角の動きを1枚に合わせた駒なので、竜王より広く動けます。将棋の竜と馬の動きを1枚で兼ね備えた駒だと考えると、扱いの慎重さが伝わるはずです。

駒の価値はポーンを1とすると、ナイトとビショップが約3、ルークが約5、クイーンが約9とされています。将棋の駒割と違って持ち駒に加算されないので、この数字は「盤上に残っている戦力の量」を数えるためのものです。

持ち駒が無い世界の考え方

チェスでは取った駒は盤から取り除かれ、二度と戦力になりません。この1点から、将棋とは違う4つの帰結が生まれます。

1. 駒の交換は必ず純減になる:将棋で同価値の駒を交換すると、双方の持ち駒が1枚増えて盤上の緊張は保たれます。チェスでは盤上の駒が2枚減るだけです。交換を繰り返すほど盤は空き、局面は自動的に終盤(エンドゲーム)へ進みます。有利なら交換して単純化し、不利なら交換を避けて複雑さを残す、という判断軸が将棋よりはっきり効きます。

2. 打ち込みの隙が存在しない:将棋で囲いを厚く組むのは、持ち駒を打ち込まれる隙を作らないためでもあります。チェスにはその心配が無いので、キングの守りはキャスリング1回とその前のポーン3枚の壁で骨格ができます(そのうえで、開いた列や斜めから狙われていないかを確認します)。金銀を3枚寄せて組むような手数はかかりません。逆に、そのポーンの壁を崩されると作り直す手段が乏しいので、囲いを「組む」より「動かさない」意識になります。

3. 攻めの立ち上がりが遅い:将棋では持ち駒1枚で急に寄せが始まりますが、チェスでは攻め駒を盤上で運ぶ手数が必ず必要です。そのぶん序盤に駒を初期位置に置いたままにする手の損が結果に直結しやすく、序盤の3原則(中央支配・駒の展開・早めのキャスリング)が強く効きます。将棋の感覚のまま序盤の1手を軽く使わないほうが安全です。

4. 戦力が増えるのはポーンの昇格だけ:チェスで自分の戦力が増える手段は、ポーンが盤の一番奥まで到達して別の駒に変わることだけです。終盤でポーン1枚がクイーンになれれば、それだけで勝敗が決まることも珍しくありません。序盤に価値の低い駒として扱っていたポーンが、終盤では最重要の駒に入れ替わります。この価値の反転が、将棋には無い読みの軸です。

将棋には無いルール5つ

動き方の差より、こちらのほうが実戦で効きます。とくに1つ目は結論が将棋と逆になるので注意が必要です。

1. ステイルメイト(引き分け):自分の手番で合法な手が1つも無く、しかもキングが王手されていない状態をステイルメイトと呼び、引き分けになります。将棋では指す手が無くなった側は負けなので、結論が真逆です。条件は「キングの逃げ道が無い」ことではなく「手番側に合法な手が1つも無い」ことです。手番側にまだ動かせるポーンや駒が1枚でもあれば成立しません。実戦で困るのは、自分が圧倒的に有利で相手が手番のときです。相手のキングの逃げ道をすべて塞ぎ、しかも相手に他の合法手も無い状態で王手をかけずに手番を渡すと、その瞬間に引き分けが確定します。終盤で相手の駒が少ないときは「手番を渡したあと、相手に合法手が1つでも残っているか」を確認する癖をつけてください。

2. キャスリング:キングをルーク側へ2マス動かし、キングが通過したマスにそのルークを移す、一手で2枚が動く特別な手です(位置を入れ替えるわけではありません)。成立条件はそのキングとそのルークがどちらも一度も動いていない、間のマスに駒が無い、キングが今王手されていない、キングが通過するマスも到着するマスも相手の駒に狙われていない、の4つです。「狙われていてはいけない」のはキング側だけで、ルークが狙われていても、ルークの通過するマスが狙われていても構いません。将棋の囲いと違って1手で完了します。権利が二度と戻らないのはキングかそのルークを動かしたときだけで、間の駒・王手・利きによる制限は一時的なものなので、解消すれば後からでもできます。キングを一度でも動かすと永久に権利を失うので、序盤にキングを触らないのが基本です。

3. アンパッサン:相手のポーンが初手の2マス進みで自分のポーンの真横に来たとき、その直後の自分の一手に限り、相手のポーンが通過したマスへ自分のポーンを進めてそのポーンを取れます。1手でも見送ると権利は消えます。取れるのはポーンだけ、取られるのもポーンだけです。将棋には「通過しただけの駒を取る」という発想が無いので、最初は不意打ちに見えます。

4. プロモーション(成り)の性質が違う:将棋の成りは、相手陣(相手側の3段)に入る・その中で動く・そこから出るときに選べる権利で、成らない選択もできます(歩・香・桂が二度と動けなくなる位置に進むときだけ強制)。チェスの成りはポーン専用で、盤の一番奥の段に到達したときに必ず成る必要があり、クイーン・ルーク・ビショップ・ナイトの4種から選びます。ポーンのままでいることも、キングになることもできません。ほぼ常にクイーンを選びますが、あえてナイトやルークを選ぶ場面もあります(クイーンにすると相手がステイルメイトで引き分けになる局面ではルーク、ナイトでしか王手がかからない局面ではナイト、という具合です)。

5. 引き分けの種類が多い:チェスには、両者が同意する合意ドロー、同じ局面が3回現れたときに主張できる引き分け、駒を取らずポーンも動かさないまま双方が50手ずつ指したときに主張できる引き分け、そしてどちらも詰ませられない駒しか残っていない状態の引き分けがあります。将棋の千日手は同一局面4回で「無勝負・指し直し」、連続王手の千日手は「王手をかけ続けた側の負け」なので、回数も結末も違います。チェスでは引き分けが正式な1つの結果なので、不利な局面をあえて引き分けに持ち込む技術が終盤の重要なテーマになります。

符号(棋譜)の読み方

チェスの本や解説を読むには符号が必要です。将棋の「▲7六歩」に相当する表記で、慣れれば5分で読めるようになります。

  • マスの呼び方:縦の列を白から見て左から順に a から h、横の段を白の手前から順に 1 から 8 とし、列と段を並べて書きます。将棋の「筋(算用数字)+段(漢数字)」に対応する考え方ですが、向きが2つ違います。筋は右からではなく左から数え、段は相手陣側からではなく自分の手前(白から見て手前が1)から数えます。
  • 駒の記号:キング K、クイーン Q、ルーク R、ビショップ B、ナイト N。ポーンには記号を付けず、行き先のマスだけを書きます。ナイトがキング(K)と重ならないよう N になっているところが、最初につまずく点です。
  • 手の書き方:駒の記号+行き先のマス(例: Nf3 はナイトが f3 へ)。ポーンは行き先だけ(例: e4)。取るときは x を挟み、王手は +、詰みは # を末尾に付けます。キャスリングは O-O(キング側)と O-O-O(クイーン側)で書きます。ポーンで取るときは元の列の記号を頭に付けます(例: exd5 は e 列のポーンが d5 の駒を取る)。同じマスへ動ける駒が2枚あるときも、どちらかを区別するために元の列や段を挟みます(Nbd2 など)。

将棋の経験がそのまま効くところ

差分ばかり並べましたが、将棋で鍛えた力の多くはチェスでもそのまま働きます。

  • 終盤の読み:詰将棋で身につけた「相手の逃げ道を数えて手を絞る」手順は、チェスのチェックメイトを読むときとほぼ同じです。詰将棋の練習量はそのままチェスの終盤力になります(詰将棋1手詰の解き方入門)。
  • 駒の利きを盤全体で把握する感覚:盤が9×9から8×8へ狭くなるので、盤全体を見渡す負担は軽くなります。ただし後ろへ戻れる駒が増えるぶん、利きの向きには慣れが必要です。
  • 玉を薄くしない判断:守りの組み方は変わっても「キングの周りの駒を減らすと危ない」という判断はそのまま通用します。
  • 手番の価値を数える感覚:1手の損得を数える将棋の感覚は、駒の展開が遅れることの損を測るのにそのまま使えます。

脳タイムのチェスで実践する

脳タイムのチェスはAIとの1対1対局で、強さをLv1からLv50まで50段階から選べます。Lv1からLv5は登録なしのゲストのまま遊べ、Lv6からLv40はテオワンIDでログインすると開放され、Lv41からLv50はためたポイントで開放できます。キャスリング・アンパッサン・成りは条件が揃うと自動で発生するので、手続きを覚えていなくても実戦の中で体験できます。成りも自動で処理されるため、成る駒を選ぶ操作はありません(上で触れた「あえてナイトやルークに成る」判断は出てきません)。チェック(王手)を受けているときに、そのチェックを解消できない駒をタップすると、盤の下に「この駒ではチェックを回避できません」と表示されます。受ける手が示されるわけではありませんが、その駒では受けられないことがその場で分かります。

将棋の経験がある方は駒の動きで詰まることはほとんどないので、まずはLv1からLv5で「取った駒が戻ってこない」感覚に慣れることを目標にしてみてください。将棋以外のボードゲームもまとめて見たい方は広告なしの無料ボードゲーム4選もどうぞ。

よくある質問

Q. 将棋が強ければチェスも強くなりますか?

終盤の読みと駒の利きの把握はそのまま活きるので、まったくの初心者よりは速く上達します。ただし持ち駒が無いことによる序盤の考え方(駒を早く展開する、交換は純減になる)と引き分けの扱いは作り直す必要があるので、そこだけは意識して切り替えてください。

Q. 駒の動きで一番間違えやすいのはどれですか?

ポーンとナイトです。ポーンは正面の駒を取れず斜め前だけを取るので、歩の感覚のままだと取れると思った駒が取れません。ナイトは桂馬と違って後ろにも跳べるので、相手のナイトが後方から来る筋を読み落としやすくなります。

Q. ステイルメイトはどれくらい起きますか?

終盤で駒数の差が大きいときに起きます。勝っている側が相手のキングの逃げ道をすべて塞ぎ、しかも相手に動かせる駒が他に1つも無い状態で、王手をかけないまま手番を渡すと、その時点で引き分けになります。相手の駒が残り少ないときは、逃げ道を1マス残しているか、相手に他の合法手が残っているか、それとも王手になっているかを毎回確認するのが対策です。

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